映画嫌い (74)

2006年6月18日
 
本日の映画は「パイ (π)」である。1998年の米国映画だ。
 
数学者のマックスが主人公である。彼は幼い頃から頭痛・目眩・幻覚の持病を持ち、今でも日常的に多量の薬を飲み、皮下注射をしながらもその病状は改善されず、症状に悩ませられながらも、自宅にこもって研究を続けている。
彼の思想は、この世のすべてのものは数字に支配されており、それを導き出す数式を解明できれば、世の中のすべても解明できるというものだ。それを実証する手始めとして、株価の変動を数式化できるか、その数式を用いて株価の変動を予測できるかを自宅のコンピュータを使って研究しているのだった。
頭痛・目眩・幻覚に襲われながらも研究を続けていたある日、コンピュータは216桁の意味不明の数字を表示した直後に故障してしまう。そして、その数字を元にして算出された予想株価が現実と一致してしまう。その謎の216桁の数字をめぐって、株式操作を企む組織、失われた216桁を探しているユダヤ教神秘主義者にマックスは追われ・・・。
 
サイコだねぇ。C級アングラの香ばしい匂いがするねぇ。でも、マックスの頭痛・目眩・幻覚のシーンが多すぎて、それが鬱陶しすぎる。見ていると、それが息苦しくなってくる。それらシーンを排除すると、この映画は半分以下の上映時間になってしまうのではないだろうか。意味のない幻覚シーンを長々と見せられてもしょうがないんだよなぁ。そもそも、マックスにそんな持病があるという設定にしなきゃならない意味がないのだ。超健康体でピンピンしている陽気な男だという設定にしておいても、ストーリー上には何ら問題ないだろうにぃ。それに、何てったってストーリーが面白くない。ストーリーが発展せず、盛り上がりもないままに終わっている。かなり地味である。
 
で、この映画、全編がモノクロなのである。あえてモノクロにしなきゃならなかった理由もわからない。無意味なモノクロ映像でしかないのだ。MTVが1980年代の前半に始動して、ミュージック・ビデオってなシーンができてしまい、ヒット曲のプロモーションを兼ねたビデオ・クリップが量産された時代があったわけだが、そのビデオ・クリップってのが、意味ありげで実は何の意味もないってな、わけのわかならいつまらんストーリーの押し売りのようなやつばかりで、その中には意味もなくモノクロになっているやつも多かったんだけど、この映画って、そんなできそこないのモノクロのビデオ・クリップみたいな映画なのだ。見ていると疲れるぞ。
 
それに、この映画、へんにオカルトの断片を入れているのが気になってしょうがない。そんなのを入れる必要性も感じられないのだ。オカルト系の皆さんへのウケを狙ったのだろうか? 実際に、オカルト系の皆さん(特に数字遊び系の神秘主義オカルトさん)からこの映画のウケは良いようだ。「黄金比」が出てくるし、ヘブライ語の数値化も出てくる。その上、ユダヤ人が絡んでくるし、216っていうお馴染みの数字(これって、あのヨハネの黙示録の「666」に関係していて、6×6×6=216って主張されちゃうんだよなぁ)が出てくるんだもの。
 
その上、この映画には誤りやツッコミどころが多すぎる。
この世のものは全て黄金比でできており・・・、って、ヒマワリの種の並び、巻貝、、DNA、星雲だのを例としてあげているんだけど、それらは黄金比ではない。黄金比で生成した螺旋形の形状に単に似ているだけだ。作者をはじめ、この映画の製作関係者は「フラクタル」を知らないのか、あるいはフラクタルと黄金比の区別がついていないかのどちらかではないだろうか?
 
黄金比の絡みで、「フィボナッチ数列」っていうのも出てきており、これって「ダ・ビンチ・コード」の中にも出てくる数列なんだけれども、この映画でも、「ダ・ビンチ・コード」でも、その数列を、
1、1、2、3、5、8、13、・・・、
と間違えているのである。正しくは、「フィボナッチ数列」ってのは、
0、1、1、2、3、5、8、13、・・・、
と、0から始まらなきゃならんのだよ。前の2つの数字の和を書き記していくってのがこの数列で、これって0から始まるものなのだが、そんな事も知らないのかなぁ?(フィボナッチ数列をネットで検索してみたが、ほとんどのページでも同じ誤りをやっているんだよなぁ)
 
で、フラクタルもフィボナッチ数列も正しく知らない「天才数学者」であるマックスは、持病の治療に「ホメオパシー療法」も利用しているってのが笑えた。論理的に物事を考えるべき数学者が、なんであんな非論理的なオカルト療法を信仰しちゃっているのだろうか?(ホメオパシーについては話が長くなるのでカットね)
 
それに、マックスは数学者のくせに「特異点」も知らないんじゃないのかなぁ?と心配になる。株価変動はフーリエ級数を用いた偏微分方程式で近似化できるけれど、それは過去の株価の統計学的な近似値にすぎす、それを元に将来の株価の予想はできないんだけれどなぁ。現時点の一寸先は「特異点」なんだよ。だから、世界最高レベルのスーパーコンピュータを使ってバリバリ計算している気象庁だって、明日の天気すらハズしちゃうんだぞ。仮にフーリエ級数を使わない偏微分方程式を立てられたとしても、その境界条件式をど〜するんだい? 境界条件の取り方によって、1分後の株価は0に収束する場合もあるし、無限大に発散する場合もあるじゃないか。もしかして、量子力学ってのも知らない数学者なのかなぁ?(量子論についても話が長くなるのでカットね)
 
ところで、彼の使っているあのコンピュータって何なんだよぉ?
むき出しの基盤にキーボード、5インチのフロッピー、ドットインパクト式のプリンタって、まるで1970年代末〜1980年代前半のジャンクものだ。スーパーコンピュータや汎用機のTSS端末にも見えないものなぁ。GUIすらないテキストベースの画面が表示されているものなぁ。もしかして、ハードディスクも仮想メモリもない時代のやつで、搭載メモリーが128KBとか256KB、CPUが8ビットとか16ビットってなものかなぁ? その程度のスペックなら、株価予想ってのは絶対に無理だぞ。
 
この映画のタイトルは「π」になっているけれど、3.14159....というあの数値とは何も関係ないストーリーになっているのもヘンテコである。
 
 
映画「π」
http://us.imdb.com/title/tt0138704/
http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=85132
 
 
 

 
 

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