映画嫌い (190)
2007年7月9日本日のクズ映画は2007年の米国映画「ダイ・ハード 4.0 (Die Hard 4.0)」である。
今回の敵はコンピュータ・ネットワークを使うサイバー・テロ集団だ。
サイバー・テロ集団はソフトウェア会社の名を語って米国のハッカーたちに協力を要請してきた。セキュリティ・システムのテストという名目で、ネットワークのセキュリティを破ってシステムに侵入できたら賞金だと言う。それに応じたハッカーはシステムへ接続する手法とパスワードを解析し、システムへの侵入に成功する。しかし、それは、セキュリティ・システムのテストではなく、実際の各種の公的システムへの侵入だったのだ。侵入に成功したハッカーたちが次々にそのテロ集団に抹殺され、システムへの侵入方法はテロ集団の手の中に。
ハッカーたちが解析した侵入方法を使って、サイバー・テロ集団はワシントンにあるFBI本部の情報システムに侵入してきた。外部からのシステムへの侵入を察知したFBI本部は、ブラックリストにある全米のハッカー1000人全員を逮捕するように指示するのだった。FBIから各地の警察にも協力が要請される。離婚して娘・ルーシーとの関係もよろしくないニューヨーク市警の刑事・ジョン・マクレーンにも市警察から指示が来た。ニュー・ジャージ−に住んでいるハッカー、マシュー・ファレルを確保して、ワシントンのFBI本部に連行せよ!と。それがマクレーンにとっての今回の災難の始まりだった。マクレーンがファレルの自宅を訪問したところ、刺客たちがファレルを抹殺しにやってきたのだ。武装した殺しのプロだ。そして、激しい銃撃戦となる。なんとかその場を逃れたマクレーンとファレルは、わけがわからないまま、車でワシントンのFBI本部へ向かう。
翌朝、テロ集団はサイバー・テロを仕掛けてきた。まず、交通関係のシステムに侵入してきたのだ。鉄道システムがダウンし、航空局管制システムもダウンする。これで鉄道も航空機もマヒ状態だ。更にはワシントンの市交通局のシステムに侵入して、信号や道路標識を操作・混乱させた。全ての交差点の信号が青になって衝突事故が多発し、ワシントンの道路はマヒ状態に。ちょうどその時にワシントン市内へ入ってきたマクレーンの車も交通渋滞に巻き込まれ、マクレーンとファレルは徒歩でFBI本部へ向かう。
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サイバー・テロは更に続く、テロ集団は衛星、通信、電話、携帯などのシステムを掌握し、証券取引所のシステムにもダメージを与えて株式市場が混乱する。また、国土安全保障局のシステムに侵入して炭疽菌警報を鳴らし、職員たちは局から退去させられる。そして、電力、水道、ガス、核施設の各システムにも侵入して、全米が大混乱に陥る。
その頃、武装したテロ集団はメリーランド州ウッドローンにある社会保障局を襲撃する。奴らの狙いはそこにあるサーバー・コンピューターか?
一方、ファレルを抹殺しようとするテロ集団は、掌握した通信・交通などのシステムをフルに使って、ファレルを探し出し、ヘリコプターから攻撃を仕掛けてくる。ファレルの命を狙っているプロ集団と、今回のサイバー・テロが関係しているのでは?とマクレーンは考えた。そして、事態の重大さに気がついたファレルの協力を得て、マクレーンはテロ集団に立ち向かう。
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テロ集団はマクレーンの娘・ルーシーを人質にするが・・・。
「ダイ・ハード」シリーズは今までの全作を見てきたが、今回の「4.0」は今までのやつに比べて、かなり地味な映画に仕上がっていると思う。サイバー・テロの話がメインだから、コンピュータ・システムを操作する地味なシーンが多く、それだけハデハデな爆破や銃撃戦が少なく見えてしまうのだ。カーチェイスや銃撃戦はあるのだけど、なんだか盛り上がりがない。戦闘機F-35に攻撃されるシーンはまあまあのアクション・シーンではあるものの、以前の「ダイハード」シリーズに比べると物足りないし、アイディア的にもいまひとつなのである。舞台がニュー・ジャージ−のカムデン、ワシントンDC、ウエスト・ヴァージニアのミドルトン、ボルチモア、メリーランドのウッドローンと移動していくのも散漫だ。デジタル男のファレルと、アナログ男のマクレーンのデコボコ・コンビの対比も物足りないし、敵のデジタルさと対決するマクレーンのアナログさの描写も弱い。ストーリーのアイディア自体が弱いのだ。最後の決戦のシーンも地味すぎて、あっと驚くシーンではないなぁ。
それにさぁ、これ、なんだか内容が古臭いんだよなぁ。敵のボスが元・政府機関のネットワーク・セキュリティ担当者だったとか、サイバー・テロに見せかけておいて結局はカネだったとか、そのような古めかしいストーリーを今さら見せられてもなぁ。敵のボスの愛人がアジア系の女性で、自らサブリーダーとなって武装して襲撃し、カンフーで戦うっていうカビのはえたようなシーンってのもいただけない。娘を人質にするってパターンも古すぎて、ただ呆れるだけだ。そ〜いう時代遅れな父娘愛を映画で見せてくれなくてもいいってばぁ。そもそもネットワークでシステム侵入だなんて、それ自体が時代遅れで古臭いじゃないか。まるでコンピュータ・ゲームの中に入り込んでしまうってな映画のような古めかしさだ。戦闘機F-35の翼の上にマクレーンが乗るシーンは、シュワルツェネガー主演の映画で似たようなシーンを見たことがあるような気がするし、エレベータのワイヤーに車がぶら下がって落ちそうになってハラハラさせるシーンは、「ジュラシック・パーク」に似たようなシーンがあったような・・・と思わざるをえないのだ。なんだか新しいものがないんだよねぇ。テロ集団のボスがマクレーンに向かって「お前はデジタル時代のハト時計だな」と言うシーンがあるんだけれど、それはマクレーンの事ではなくて、この古めかしい映画のことを言っているように思えるのは私だけであるまい。
タイトルが「4」ではなくて「4.0」ってなコンピュータのハードウェアやソフトウェアのバージョンのような表記にしているのは、この映画がコンピュータものであることを示しているつもりなんだろうけれど、この映画で描写されているコンピュータやネットワーク・システムって、かなり現実離れしてヘンテコなものなのである。
この映画では、ネットワーク経由でシステムに侵入すると何でもできてしまうかのように見せているけれど、現実のシステムではそのようになっていないのである。たとえば、ガス会社のシステムに侵入できたとしても、ガス管の配管やバルブのコントロールをシステム経由で遠隔操作できるようになっていないのが現状だ。米国でも日本でも、せいぜい、システムの中にサブシステムとしてGIS(地理情報システム)があって、ディスプレイ上に表示した地図の上に配管などの管理情報(配管ルート、口径や埋没年月日などの属性データ)を重ね合わせて見る事ぐらいしかできないのである。だから、この映画のように、ガス会社のシステムに侵入してガスの流れるルートを遠隔操作して、指定した場所にガスと炎を送り込んで攻撃するということは、とてつもなく非現実的なのである。同様に、ネットワークに接続されていない信号機の点灯を青に遠隔操作するのも不可能であるし、ネットワークに接続されていない街中の防犯カメラを遠隔操作してその撮影画像をコンピュータのディスプレイに表示させることも不可能なのだ。ってなことで、この映画の中に出てくるようなコンピュータ・ネットワークで支配されている世の中って、20年くらい前に考えられていた古くさい近未来SF的コンピュータ支配社会であって、現状とはかなりかけ離れているのである。
また、映画のストーリーにでてくるような、全米のデータを特定の一箇所のサーバー・コンピュータ(社会保障局)に集めているってのも非現実的なシステムである。データ保護の為にデータを分散化させるのはセキュリティの基本中の基本だと知らないのかなぁ? 1960年代に米国の国防総省による戦略システムの開発において、もしも敵がメイン・コンピュータを核攻撃してきて、それが破壊されたりダウンしたら・・・ってな場合を恐れて、データの分散化とデータ処理を行なうコンピュータの分散化の手法が研究され、それがARPANETという軍用のネットワーク・システムになり、それが元となって、現在の民間用のインターネットができあがったのである。データやデータ処理するコンピュータを一箇所に置いて、そのサーバー・コンピュータで処理を行なうというシステム構築は40年も前に否定されているのである。お願いだから、映画を作る前にはそれくらいの勉強しておいてよね。
ハッカーがプロクシも使わずに自分のIPアドレスをモロ出しにしてシステム侵入するってのもありえない状況だなぁ。それに、FBIのコンピュータってのは、UNIXベースのTCP/IP、イーサネット系のプロトコルでネットワーク構築されていないから、外部からインターネット経由でhttpとかftpのプロトコルのネットワーク層で接続すること自体が無理だ。telnetも使えないんだもの。たとえ接続できたとしても、パスワードを解析するのには、現在の世界最速のスーパーコンピュータを使ってバリバリと解析処理をやらせても2億年以上の計算時間が必要なんだよねぇ。プロのシステム・エンジニアさんなど、コンピュータに詳しい人がこの映画を見たら、その他にも多くの誤りやヘンテコなシーンに気がつくだろう。
映画「ダイ・ハード 4.0」
http://movies.foxjapan.com/diehard4/
http://www.livefreeordiehard.com/
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