映画嫌い (252)

2008年3月26日
 
本日のカス映画は2007年の邦画「自虐の詩」だ。既に廃刊の某週刊誌にかつて連載されていた業田良家の同名の4コマ漫画を実写版映画化したものである。
 
あの原作の4コマ漫画の世界観は好きだったなぁ。薄幸で哀れな主人公・幸江の数々の不幸と、それを耐え忍ぶ無言なる表情、自虐的な不幸の中にちょっとだけ見え隠れするささやかなる幸せ・・・、を笑ってあげるという、悪趣味な笑いがメインだった。他人の不幸を笑うというブラックな漫画だったよなぁ。元ヤクザでパンチパーマの夫・イサオが無言でちゃぶ台をひっくり返す毎度毎度のシーンには笑わせてもらったものだ。なんで今になってあれを映画化するのかは疑問ではあるが、原作漫画のファンとしてはどんな映画になっているのか見ておかなければなるまい。あの断片的な4コマ漫画をストーリー性のある映画にするんだから、かなり違ったものになってしまうのは想像に難くないが・・・。
 
 
母に逃げられ、父が銀行強盗で捕まり、学校ではみんなの嫌われものという悲惨な生い立ちの幸江は、内縁の夫のイサオとふたりで木造のボロ・アパートに住んでいた。イサオは元ヤクザで定職もなく酒浸り、パチンコ三昧の日々。ふたりは共に口数が少なく、意志の疎通がする会話もなく、貧乏な日々過ごしていた。短気なイサオは何かとキレて無言でちゃぶ台をひっくり返すが、幸江は黙ってそれに耐えるしかなかった。自分の暗くて不幸な人生を幸江はイジイジと悲観しながらも、いつの日にか幸せになる事を夢見ていたのだった。イサオは仕事に出る事にしたが、仕事中に暴力沙汰を起こしてすぐにクビになってしまう。
そんな時、幸江がパートで働いているラーメン店「あやひ屋」のマスターが幸江にプロポーズをする。更には刑務所を出てきた父が幸江の前に現われたり、ヤクザの親分がイサオに組へ戻るように誘ってきたり・・・と人間関係、人間模様が錯綜する。
更には、幸江がイサオの子を妊娠した事が発覚した。それを知って驚愕するイサオ。ところが、ラーメンの出前の配達中、幸江は歩道橋から転落してしまい・・・。
 
 
前半は原作の4コマ漫画の断片が予想以上に挿入されていた。期待していた「ちゃぶ台」シーンが何度か登場している。しかし、どのギャグも完成度は低いねぇ。オチが先読みできちゃうような平凡なギャグにしかなっていないんだもの。そして、半ばのシーンで幸江の妊娠が発覚して、それ以降がまるで別の映画になっちゃって暴走しているのだ。原作無視の別ストーリーである。妊娠騒動ってなものになっているわけでなく、無理矢理とプチ感動ものストーリーに持って行っているのだ。歩道橋から転落して病院に搬送された幸江が意識不明の中、自分の悲惨な中学生時代の事や、イサオとの出逢いを回想するというパターンになっているんだけど、お笑いとしても薄いし、ストーリー性も薄いんだよなぁ。これのどこが「自虐の詩」なんだよぉ?と思ってしまう。イサオとの出逢いのストーリーは邪魔なだけだもの。幸江の中学生時代の回想のほうはまぁまぁなんだけれど、ラスト・シーンの1つ手前で中学生時代の同級生「熊本さん」と幸江が再開するストーリーもなんだかなぁ。そのようなストーリー付けなんかしないで、全編を小ネタのギャグの応酬で通せばよかったのにねぇ。そして最後には浜辺で幸江とイサオと生まれてきた赤ん坊の3人でのシーンになっちゃっているんだものぉ、これじゃぁ「自虐の詩」じゃないだろ!と思うのは私だけであるまい。
 
幸江を演じているのは中谷美紀なんだけれど、この人、なんだか役にマッチしていないんだよねぇ。薄幸で暗い感じが出ていないんだもの。幸江の自虐性、あきらめに近い忍耐という厭世感も出ていないなぁ。もっと適任な役者を3人くらい私は思い当たるもの。それに、脚本の問題だろうけれど、セリフも多すぎるし、人間としてしっかりしすぎているのがつまらないな。原作漫画では吹き出しの中のセリフが「・・・」と表記されているダンマリな状態が多いキャラなのに、それとはかけ離れちゃっている。いくらイサオにしいたげられても、これが究極の愛の姿であるというような自己主張や、表に出せない抵抗感という一種のマゾ的な姿も描写すべきだったろうに。
 
一方のイサオの役は阿部寛だ。阿部寛がパンチパーマ姿で出てくるのはちょっとだけ意外だったけれど、毎度毎度のデクノボーな彼の芸風にこの役はまぁまぁマッチしている。しかし、これも脚本が悪いのが原因だが、幸江の妊娠に対してヒューマニズムのある一面を見せてしまうというありきたりの役で終わってしまい、それでかなりシラケてしまうのだ。あの役にセリフなんか一言もいらないだろうに。
 
その他の役者として、同じアパートに住むオバちゃんにカルーセル麻紀、幸江の父に西田敏行、ヤクザの親分に竜雷太が登場している。
その他のチョイ役として、Mr.オクレ、蛭子能収、気仙沼ちゃん、ミスターちん、たいぞう、ダンテ(ソフトバンクの携帯電話のCMの黒人さん)、アジャ・コング、・・・らが出演していて、それでちょっとだけ笑いを取っているその手法、それにこのカメラワーク・・・、どこかで見た事があるような・・・と思っていたら、やはり監督は堤幸彦だった。堤幸彦が監督をしていた「TRICK」と同じような手法なのだ。でも、「TRICK」ファンが見ても物足りない映画に見えてしまうだろうな。4コマ漫画の原作「自虐の詩」が好きな私としても随分と物足りなかったぞ。
ってことで、この映画は見てもしょうがないだろう。
 
 
映画「自虐の詩」
http://www.jigyaku.com/index.html
 
 

 


 
 

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