映画嫌い (455)
2009年7月25日 映画
私が某国立大学の工学部の学生だった時、「熱力学」という分野の単位があって、「熱力学 I」、「熱力学 II」というのが必修科目だった。その「熱力学 II」の講議では、原発の原理から、エネルギー効率、核分裂制御などの工学的な内容の他、原発の問題点や社会的影響などについても徹底的に勉強させられたのだ。講議を担当していたK助教授(当時)は、東大卒で某有名企業(H社)に就職して原発の開発をしていたという、日本の原発の先端におけるブレイン的な存在だった人で、私の通っていた大学のT教授に引き抜かれて助教授として就任してきたのだった。そのような原発の開発関係者に言わせると、莫大なエネルギーを高効率で発生する事ができる原発は「超・画期的」な「エネルギー革命」であり、こんな素敵な物はない!ってな、まるで原発を神格化した宗教みたくなっちゃっているのである。そのような信仰における問題点は、放射性物質を扱う上での安全性だ。反原発派の人たちのツッコミどころのほとんどは安全性に関するもので、原発推進派の人たちも安全性のツッコミをされた場合の言い訳を用意しているのである。その、「いかに原発は安全な物なのか?」というのは「熱力学 II」の講議の中でも扱われていて、勿論、「原発は安全だ」という結論しか用意されていないのであるが、私はあの講議を受けて頭がクラクラしてきたものなぁ。どのような理論で「原発は安全だ」と結論されるのかと言うと、人が交通事故で死ぬ確率は●●パーセント(数値は覚えていない)、人が航空機事故で死ぬ確率はそれより低い●●パーセント(これも数値は覚えていない)、これに対して、人が原発の事故で死ぬ確率は更に低い●●パーセント(これも覚えていない)、ほ~ら、桁違いに原発で死ぬ確率が低い。だから「原発は安全だ」と教えられるのだ。そ~いう確率の比較によって「原発は安全だ」と結論するのは詭弁、暴論だろ。正論で安全を宣言できないのである。交通事故で死ぬ確率と比較してどうなる? 人が原発の事故で死ぬ確率の算出方法についても疑問が残るしなぁ。そんな事もあって、私は原発に対して著しい不信感を持っている。クラスメイトのほとんどは、あの宗教に洗脳されちゃったようだが。
ところで、反原発派の人たちが皮肉を込めてツッコミを入れる言葉の1つにこんなものがある。「そんなに安全な物だったら、なんで原発を東京都内に作らんのだ?」とか「安全なら、東京電力の本社の地下に原発を作ってみぃ」ってなやつだ。なかなか良いツッコミである。
前置きが長過ぎたが、その「東京に原発を作る」論を題材にしちゃったのが、本日の映画だ。2002年の邦画「東京原発」である。
東京都の天馬知事(役所光司)は緊急会議を召集した。都庁の会議室に集められたのは副知事(段田安則)と財務局長(岸部一徳)、都市計画局長(菅原大吉)、環境局長(吉田日出子)、産業労働局長(平田満)、そして政策報道室長(田山涼成)ら幹部だった。その会議で知事が発表したのは「東京に原発を誘致する」というものだ。
知事が説明する原発誘致の理由は、
(1) 「原子力施設等立地地域振興特別措置法」によって国が原発誘致地域にばらまく莫大な補助金を得て、更には原発から多額の固定資産税を徴収できる。これによって東京都の財政赤字の改善ができる。
(2) 莫大な経済効果が見込まれ、民間企業の景気も上昇する。
(3) 新潟や福島の原発は冷却水の廃熱を海に捨てているが、東京都は廃熱のエネルギーを都市の冷暖房に有効利用できる。
の3点だ。知事の考えている建設予定地は、都庁の目の前の新宿中央公園である。幹部らは突然の知事の原発誘致の爆弾発言に困惑する。ドイツが原発の完全廃止を宣言し、日本では東海村での臨界事故で2人が死亡したという状況もあり、マスコミや世論が騒いで数万人規模の反対デモが起こるのは必至だ。会議室では原発の是非の熱い論議が行なわれる。
そして、専門家の意見を聞こうという事になり、知事は原子力安全委員会の松岡を呼ぼうとするが、その時、松岡は、密かにフランスから船で運ばれてきたプルトニウムを反対派の監視の裏をかいて東京湾で陸揚げして、トレーラーで福井の原発に運ぶ作業に関わっており、都庁の会議室に来られない。副知事が呼んだ専門科は東大の榎本教授(綾田俊樹)だ。榎本教授は原発の危険を次々に暴露する。
そんな時、プルトニウムを乗せたトレーラーがひとりの少年によって襲撃され、爆弾が仕掛けられてしまった。核ジャックだ。トレーラーは都庁の前で停止した。プルトニウムで首都壊滅の危機が・・・。
後半で突如と核ジャックの話題になっちゃっているのがバカである。核ジャックなんかこの映画に必要ないだろ。
前半の都庁の会議室のシーンは、妙に説明口調のセリフの応対が続き、幹部たちが顔を見合わせたり、おバカな発言があったり・・・と、舞台の上での演劇っぽく見えるのもいただけない。結局は、榎本教授のセリフを借りて、いかに原発というものが危険な物なのかをプロパガンダするショボい映画にしか見えてこないのである。榎本教授が述べる不安感を煽る原発の危険性についても、使い古しの反原発理論でしかなく、チェルノブイリとかチェレンコフ光、プルサーマルなどのキーワードは出てくるものの、どれもツッコミが浅すぎる。何ら新しいものがない。新鮮味に欠けるのである。「日本の原子力に関する情報公開はロシアにも劣る」の言葉にしても、当時のちょっとした流行語にすぎない。そのトボケたキャラで、もっと強硬な主張をさせてみるべきだったろうにぃ。私も反原発派なのであるが、このような中途半端な反原発映画には逆に反感を持ってしまうものなぁ。
で、結局、「知事は原発誘致を都民に告知して反原発の意識を高め、日本から原発をなくす事を東京都から率先しようとしているのだ」と幹部たちが勝手に思い込み、それでプチ感動しちゃうのもダメだな。知事が本当に原発推進派なのか、幹部たちが想像した通りの反原発派なのか明確にしないで終わっているのもダメだ。せっかくこの手の映画を作るのなら、もしも都庁前に原発ができたら・・・という仮想の元で、もっとツッコんだものにしろよなぁ。都民の混乱とか、反対運動とかも見せるべきだろうにぃ。
ってことで、この映画にはガッカリである。
映画「東京原発」
http://www.bsr.jp/genpatsu/
http://www.bsr.jp/genpatsu/main.htm
ところで、反原発派の人たちが皮肉を込めてツッコミを入れる言葉の1つにこんなものがある。「そんなに安全な物だったら、なんで原発を東京都内に作らんのだ?」とか「安全なら、東京電力の本社の地下に原発を作ってみぃ」ってなやつだ。なかなか良いツッコミである。
前置きが長過ぎたが、その「東京に原発を作る」論を題材にしちゃったのが、本日の映画だ。2002年の邦画「東京原発」である。
東京都の天馬知事(役所光司)は緊急会議を召集した。都庁の会議室に集められたのは副知事(段田安則)と財務局長(岸部一徳)、都市計画局長(菅原大吉)、環境局長(吉田日出子)、産業労働局長(平田満)、そして政策報道室長(田山涼成)ら幹部だった。その会議で知事が発表したのは「東京に原発を誘致する」というものだ。
知事が説明する原発誘致の理由は、
(1) 「原子力施設等立地地域振興特別措置法」によって国が原発誘致地域にばらまく莫大な補助金を得て、更には原発から多額の固定資産税を徴収できる。これによって東京都の財政赤字の改善ができる。
(2) 莫大な経済効果が見込まれ、民間企業の景気も上昇する。
(3) 新潟や福島の原発は冷却水の廃熱を海に捨てているが、東京都は廃熱のエネルギーを都市の冷暖房に有効利用できる。
の3点だ。知事の考えている建設予定地は、都庁の目の前の新宿中央公園である。幹部らは突然の知事の原発誘致の爆弾発言に困惑する。ドイツが原発の完全廃止を宣言し、日本では東海村での臨界事故で2人が死亡したという状況もあり、マスコミや世論が騒いで数万人規模の反対デモが起こるのは必至だ。会議室では原発の是非の熱い論議が行なわれる。
そして、専門家の意見を聞こうという事になり、知事は原子力安全委員会の松岡を呼ぼうとするが、その時、松岡は、密かにフランスから船で運ばれてきたプルトニウムを反対派の監視の裏をかいて東京湾で陸揚げして、トレーラーで福井の原発に運ぶ作業に関わっており、都庁の会議室に来られない。副知事が呼んだ専門科は東大の榎本教授(綾田俊樹)だ。榎本教授は原発の危険を次々に暴露する。
そんな時、プルトニウムを乗せたトレーラーがひとりの少年によって襲撃され、爆弾が仕掛けられてしまった。核ジャックだ。トレーラーは都庁の前で停止した。プルトニウムで首都壊滅の危機が・・・。
後半で突如と核ジャックの話題になっちゃっているのがバカである。核ジャックなんかこの映画に必要ないだろ。
前半の都庁の会議室のシーンは、妙に説明口調のセリフの応対が続き、幹部たちが顔を見合わせたり、おバカな発言があったり・・・と、舞台の上での演劇っぽく見えるのもいただけない。結局は、榎本教授のセリフを借りて、いかに原発というものが危険な物なのかをプロパガンダするショボい映画にしか見えてこないのである。榎本教授が述べる不安感を煽る原発の危険性についても、使い古しの反原発理論でしかなく、チェルノブイリとかチェレンコフ光、プルサーマルなどのキーワードは出てくるものの、どれもツッコミが浅すぎる。何ら新しいものがない。新鮮味に欠けるのである。「日本の原子力に関する情報公開はロシアにも劣る」の言葉にしても、当時のちょっとした流行語にすぎない。そのトボケたキャラで、もっと強硬な主張をさせてみるべきだったろうにぃ。私も反原発派なのであるが、このような中途半端な反原発映画には逆に反感を持ってしまうものなぁ。
で、結局、「知事は原発誘致を都民に告知して反原発の意識を高め、日本から原発をなくす事を東京都から率先しようとしているのだ」と幹部たちが勝手に思い込み、それでプチ感動しちゃうのもダメだな。知事が本当に原発推進派なのか、幹部たちが想像した通りの反原発派なのか明確にしないで終わっているのもダメだ。せっかくこの手の映画を作るのなら、もしも都庁前に原発ができたら・・・という仮想の元で、もっとツッコんだものにしろよなぁ。都民の混乱とか、反対運動とかも見せるべきだろうにぃ。
ってことで、この映画にはガッカリである。
映画「東京原発」
http://www.bsr.jp/genpatsu/
http://www.bsr.jp/genpatsu/main.htm
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