映画嫌い (122)

2006年12月11日
 
本日の映画は2006年の邦画「日本以外全部沈没」である。
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33年ぶりにリメイクされた邦画「日本沈没」に便乗して制作・公開された映画である。勿論、小松左京が原作の「日本沈没」のパロディだ。
 
まず、これの原作本「日本以外全部沈没」についての話をしておくことにしよう。
「日本沈没」の小説が発売されてベストセラーになっていた1973年当時に、小松左京、星新一、筒井康隆らのSF作家が集まって飲み会をやっていて、その時にジョークで星新一が「日本以外が全部沈没するっていう話があっても面白いではないか」と言って「日本以外全部沈没」のタイトルを考案し、小松左京本人の了承の上で、そのタイトルで筒井康隆が書き上げた短編小説が元になっている。その短編小説「日本以外全部沈没」は現在は筒井康隆の短編集の文庫本「日本以外全部沈没」で読むことができる。二十数ページの短編なので、本屋で見かけたら立ち読みしよう。
その原作は、文字通り、日本以外が全部沈没する話である。正確には、沈没した後の話だ。生き残った外国の政治家、著名人たちが日本に移住してきて、日本の生活・文化・風習に馴染めなかったり戸惑ったりする姿や、日本人に媚びて生きていかなければならない姿をブラック・ユーモアたっぷりに書いているのである。いかにも筒井康隆らしい内容である。読んでいると、筒井康隆の笑う顔が浮かんでくる。
で、登場する数十名の外国の政治家、著名人たちってのが、この小説が書かれた当時の実在の人物で、中国から毛沢東、周恩来、アメリカからフランク・シナトラなんかが日本に移住してくることになっているんだけれど、今となっては、毛沢東も周恩来もシナトラも故人となっており、今それを読むと時代のギャップが否めない。登場人物のほとんどが故人になっているような気がする。ビートルズも登場しているんだけれど、ビートルズも今となっては死亡率50%である。タイトルを考案した星新一も故人だな。
 
だから、当然ながら、映画化された「日本以外全部沈没」は、原作の古い短編をかなりアレンジしたものになっていた。筒井康隆の原作本とは無関係なものに思えるほどのアレンジだ。日本以外が沈没し、海外から難民が日本に押し寄せ、日本の人口が5倍になってしまい、食料がなくなり、物価も高騰し、外国人犯罪も増加し、外人たちはホームレスになったり、肩身の狭い生活をするってな内容だ。実在する人物が本人役で出演しているのは、ディブ・スペクター(註1)くらいかな。
 
出演している俳優もパロディである。日本の総理大臣、安泉純二郎を演じているのは村野武範だ。村野武範は33年前にTBSのテレビ・ドラマとして放送された「日本沈没」で主人公の小野寺を演じていた。防衛庁長官の石山新三郎を演じているのは藤岡弘(註2)である。藤岡弘は33年前の映画のほうの「日本沈没」で主人公の小野寺を演じていた。「日本沈没」に登場していた田所博士もこっちの「日本以外全部沈没」に登場している。これであと草ナギ剛を出演させていれば完璧だったのにねぇ。
 
その他のパロディでは、某・北の総書記が日本を乗っ取ろうとするシーンや、
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飲み屋で筒井康隆がシュワルツェネガー、ブルース・ウィリスに芸をやらせて小遣いをやるシーンとか、
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テレビ番組に「明日の外人予報」ってのがあって、外人予報士の森田良純という男が出てきて(演じているのは松尾貴史)、明日に外人が出没して治安が悪くなりそうな地域に注意報を出したりするシーンがあったりする。
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でも、この映画、笑いの密度が低いんだよなぁ。パロディにしても、いまひとつツッッコミが浅いし、ユーモアのセンスが良いとは言えないよなぁ。「日本沈没」がリメイクされることになって、あわてて「日本以外全部沈没」を映画化する企画書が出されて、大急ぎで作ったんだろうけど、公開日を半年くらい遅らせても、もっと中味の濃いものにすべきだったろうになぁ。筒井康隆ファン、パロディ・ファンの私としては、こんな安っぽい映画に仕上がっていることに残念でならないのであった。
 
ってことで、この映画のデス度は星3個。
★★★☆☆
 
 
映画「日本以外全部沈没」
http://www.all-chinbotsu.com/
 
 
註1:ディブ・スペクター
「ディブ・スペクター日本語学院」ってのを経営して、移住してきた外人たちを相手に日本語を教えてボロもうけしちゃう!ってな設定だ。
 
註2:藤岡弘
藤岡弘の芸名は正しくは「藤岡弘、」である。名前の最後に「、」が付き、それを含めてが芸名なのである。しかし、文章中に「、」を含めて書くのはややこしいので、上記の文中では「、」を書くのを省略した。
実は「藤岡弘、」に「、」が付くってのは、「モーニング娘。」の「。」より、ずぅ〜っと歴史が古いのだ。ちなみに、本人によると「、」には「いまだ完成せず」の意味を込めているそうなんだけれど、「、」にそ〜いう意味があるのかぁ?
 
藤岡弘、
http://www.samurai-hiroshi.com/map.html
 
 

 
安泉首相を演じている村野武範は、小泉・前首相っていうよりは、民主党の元・代表の管直人に似ているな。ほんのちょっとだけだが。
 

 
 
 

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