カラオケ嫌い
2006年12月13日オランダの話の続きでも。
オランダのバンドといえば、何ってったって、フォーカス(Focus)だろう。1970年代にオランダ国内でも大成功し、海外でも売れまくった。オランダの音楽史上、これほど国外でも成功したバンドはない。
英国において、T・レックス(T.Rex)、デヴッド・ボウィ(David Bowie)らのグラム・ロックが全盛で、エマーソン・レイク&パーマ(Emerson,Lake & Palmer)やイエス(Yes)、ピンク・フロイド(Pink Floyd)のプログレ勢、レッド・ツェペリン(Led Zeppelin)、ディープ・パープル(Deep Purple)、ユーライア・ヒープ(Uriah Heep)などのハード・ロック勢が大人気だった1970年代初頭、突如としてヒット・チャートにフォーカスが登場して話題騒然。その現象が米国や日本、ヨーロッパ各国にも伝播して、フォーカスのブームになったのだ。伝統的なクラシック音楽と革新的なジャズの両方のスタイルをロックに持ち込んだのが、ナウなヤングにバカウケ!・・・だったのだ。
フォーカスのリーダーはキーボードとフルートを演奏するタイス・ファン・レア(Thijs van Leer)で、彼がほぼ全曲を作曲している。そして、ギターが超人的演奏力を持ったヤン・アッカーマン(Jan Akkerman)だ。他にベースとドラムの2人がいるが、何度かのメンバー・チェンジをしており、実質的にはフォーカスはタイスとヤンの双頭バンドである。基本的にはフォーカスはインストルメンタル・バンドだ。時々、タイスがボーカルもとっていたけれど、歌の入っている曲はLPに1曲だけという暗黙の了解があった。タイスもヤンも共にクラシック音楽、特にルネッサンス期の音楽にルーツがあり、そこから産み出された美しいメロディが支持されていたのである。更にはヤンの超絶ギターに人気が大爆発だった。英国の音楽誌の人気投票では、それまで10年間トップにいたエリック・クラプトン(Eric Clapton)からヤンはトップの座を奪い、その事件は新しい時代の到来の象徴のようなものだった。フォーカスの音楽は、まだフュージョンとかクロスオーバーと呼ばれるジャンルがない時代における革新的な音楽だったのだ。
では、フォーカスの曲を2曲。
http://www.youtube.com/watch?v=0s8qT29x9Pw
http://www.youtube.com/watch?v=SI2tITOZgs0
今、改めて聴いてみると、ヤン・アッカーマンのギターって、サンタナからラテン風味を抜いたような感じ、あるいはクラシカルにしたラリー・カールトンに聴こえるのは私だけであるまい。
さて、フォーカスの代表曲であるが、1972年にシングル・レコードとして大ヒットした「ホーカス・ポーカス (Hocus Pocus)」だと言って良いだろう。日本でも「悪魔の呪文」というタイトルでヒットしている。彼らの最大のヒット曲である。
で、この曲が実はヘンなのである。フォーカスの音楽性を象徴するような曲調ではないのだ。この曲だけを聴いて、フォーカスってこういう曲をやるバンドだと勘違いした人も多いらしい。ヘンな曲だけれどもヒットしちゃったんだからしょうがない。
似たようなパターンは他のバンドにも時々ある。そのバンドの本来の音とはかけはなれた曲が思わぬヒットしちゃって誤解されるパターンである。イエスの「ロンリー・ハート (Owner of a Lonely Heart)」、ジェネシス(Genesis)の「アイ・ノウ・ホワット・アイ・ライク (I Know What I Like)」なんかがそれだろう。ア・ハー(a-ha)の「テイク・オン・ミー (Take on me)」、レインボー(Rainbow)の「シンス・ユー・ビーン・ゴーン (Since You been Gone)」、エアロスミス(Aerosmith)の「ドリーム・オン (Dream On)」もそのパターンにあてはまるか。ブラス・ロックのシカゴ(Chicago)やハード系のフォリナー(Foreigner)がバラードばかりしかヒットしないってなパターンもちょっとだけ似ているかな。
では、実際に、フォーカスのそのへんな曲「ホーカス・ポーカス」を聴いてみよう。
http://www.youtube.com/watch?v=7v_9A420_-U
印象的な歌だよなぁ。一度聴いたら忘れられない曲だ。演奏が終わると、客が総立ちで拍手喝采であるのも凄い!
ヨーロレイヒ〜!
って歌う「ヨーデル」という民族音楽の歌唱法を導入しちゃったのであった。ヨーデルとロックの融合。これはいくらなんでも悪趣味だよなぁ。歌っているタイスの目も完全にイっちゃってるしなぁ。こ〜いうオジサンを街中で見かけても絶対に視線を合わせたくないなぁ。まず、その髪型からしてヘンだろ。
で、15年くらい前のことなんだけど、なんと、この曲がカラオケになっていた!
ススキノにある某カラオケ店に、この曲のカラオケがあったのだ。まさかこんな曲がカラオケになっているなんて!と驚愕だった。
悪趣味な私なので歌ってみたのだった。ヨーデルなんか歌った経験がないものだから、勿論、ろくな声がでずに私は玉砕状態だった。その時のモニタ画面に表示される歌詞がイキだったのだ。こんな歌でもちゃんと歌詞が出るってのがイキだよなぁ。その歌詞ってのが、ひらがなで、
よろれひ・よろれい・ぼん・ぽん・ぽーん!
なんだもの、イキでしょ?
ところが、その後、この曲がカラオケになっているのを二度と見ることはなかった。幻のカラオケ曲である。
フォーカス
http://rock.princess.cc/rock/focus.html
http://www.ne.jp/asahi/matsuwa70/home/focus.html
http://www.focustheband.nl/
この手のパターンで、カラオケにあったらいいなぁと思う曲は、ピンク・フロイドの「ユージン、斧に気をつけろ (Careful with That Axe Eugene)」である。
どんな曲なのか知らない人は、こちらをどうぞ。
http://www.youtube.com/watch?v=UX93wNMhDFI
カラオケで歌う場面は、3分5秒のあたりからの「ギャー!」っていう絶叫の部分と、その前後の囁きの部分のみってことで。
是非、誰かに、これの「ギャー!」の絶叫のコンテストを企画してもらいたいな。審査員にピンク・フロイドを呼んで。
ちなみに、元・キング・クリムゾン(King Crimson)、エイジア(Asia)のボーカルのジョン・ウェットン(John Wetton)は、カラオケ大好きオッサンらしく、来日した時は必ず日本の関係者にカラオケに連れて行ってもらうらしい。そして、ビートルズなんかを歌うらしいのだ。自分の持ち歌の「21世紀の精神異常者 (21st Century Schizoid Man)」がカラオケにあったら、それも歌うというのだ。でも、その曲って、最初と最後にちょっとだけボーカル部分があるだけでしょ。長い長い間奏の部分って、いったい何をやって過ごせばいいのだろうか?
ジョン・ウェットン先生、ご自身からの模範解答をもらいたいものだ。
エア・ギターかな?